先日、早期胃癌研究会の先生に日本の胃がん検診の現状についてご講演を拝聴する機会がありました。日本は胃癌による死亡率は減少している、バリウムによるレントゲン検査(胃透視検査)と、内視鏡(胃カメラ)による検査が行われており、レントゲン検査は胃癌死亡率減少効果が証明されており(内視鏡は証明されていない)、集団からの進行癌の拾い上げには有効、いっぽう内視鏡検査は早期癌発見に優れているが、効率が悪く検査レベルに施設間で差があるなど、それぞれ一長一短があるという主旨でした。
ピロリ菌の世代ごとの感染率は年齢に%をつけたらだいたい一致すると言われています(つまり、20歳代は20%、70歳代は70%)。胃癌の死亡率低下は、ピロリ菌感染率の低下と言ってもいいでしょう。除菌治療は、胃十二指腸潰瘍や一部の疾患にのみ保険適応になっておりましたが、一昨年の2月から内視鏡検査でピロリ菌感染胃炎が疑われれば、保険診療でピロリ菌検査と、除菌治療が可能になりました。そのため、60歳をこえてある程度時間に余裕がある方々(つまり60%のヒトがピロリ菌陽性の世代)が心配になって来院され、除菌を希望される方が多くいらっしゃいます。もちろんその年代の方にも除菌することにメリットはありますが、本来ピロリ菌検査や積極的に除菌治療が必要なのは、もっと若い方々なんです!でも、そういった若い方々は多忙であり、胃の症状があってもなかなか内視鏡検査が受ける機会がなく、よくても会社で義務付けられた胃透視検査を時々やられているのが現状だと思われます。現在の日本の保険診療では、胃透視検査でピロリ菌感染胃炎が疑われても、内視鏡検査を行わなければ除菌はおろかピロリ菌検査も保険診療で受けられません。つまり、胃透視検査で異常が疑われ、精密検査として内視鏡検査が行われ、そこで初めてピロリ菌感染胃炎が疑われた場合に保険医療でピロリ菌検査と除菌治療が受けられるという流れになっています。ピロリ菌感染胃炎を胃透視検査で疑うには、バリウムののりや撮り方などの技師、読影する医師の技量が問われます。そこで近年、ペプシノゲン法といって血液検査で萎縮性胃炎を診断する方法があり、ピロリ菌感染の有無と組み合わせたABC検診が注目されておりますが、ペプシノゲン法は胃酸を抑えるような薬を飲んでいると正確に萎縮を判定できないなど、将来どのような位置付けになるか不確定な状況です。
胃がんの大部分は、ピロリ菌感染→萎縮性胃炎→腸上皮化生→早期胃癌→進行胃癌という流れがわかっており、胃癌は感染症だと言う学者も少なくありません。つまり、胃がんを撲滅するためには、なるべく若いうちにピロリ菌感染の有無を調べ、陽性の方をなるべく早く除菌治療を行う必要があります。そこで、毎年の胃透視検査では何も異常は指摘されていない方でも、一度は内視鏡検査を受けるか、検診のオプション(つまり自費)でピロリ菌感染の有無を調べることをお勧めします。特に自分の母親がピロリ菌陽性の方は、乳幼児に口移しで母親からピロリ菌が感染している可能性がありますので、特に若いうちに調べておく必要があります。
胃がんにならないためのアドバイスでした!